白岩は狼狽していた。
事件に関する手掛かりが驚くほどないのだ。
「ジャック・クリスピン曰く、『見つからないものはそもそも存在の有無が怪しい』ってさ」職場の上司である西塔は机に両足をのせて言った。彼は高校の時不良のチームに入るため不良のふりをしたらしいが、その時の癖でやってしまうらしい。
「ネットで何回も調べましたけど、ジャック・クリスピンなんて歌手はいそうにないですよ」そもそもジャック問い名前自体がありがちなために検索してヒットはするのだが、歌手でロックバンドのジャック・クリスピンはなかなか見つからないものである。
「馬鹿かお前は。ネットってのは全てが存在してるわけじゃねぇんだよ」イヤフォンはしていたがこちらの声は聞こえるらしい。「お前もそろそろ捜査チームから外してもらったらどうだ。一向に見つかるわけがねぇよ、こんな事件」
本格的な捜査チームが結成されて二ヶ月が経過したが、文字通り犯人の足跡すらつかめない。
昨日の被害者で27件目となったにも関わらず、指紋、足跡、痕跡など一切みつからない状況に、ベテランの刑事すらほぼさじを投げている状態である。そのベテランの刑事が彼、西塔なのだが。
「西塔さんは、犯人を捕まえたくないんですか」
「犯人は捕まえたいさ。けど、俺らが見つからない犯人にかまってる間にほかの事件に時間が割けなくなっちまっておろそかになる。それもまたおかしな話だろう」
西塔の話は一理あった。しかし、それでは刑事として本末転倒である。何より白岩には犯人を追い続ける理由がある。
白岩の父親は殺された。白岩と母親が出かけている間に犯人に心臓を刺され、家の金20万を盗まれた。父は平凡な会社員だった。仙台の中小企業の部長にまで昇進し、借金もローンもなく、貯金もあった。温厚であり、厳しい時は厳しかった。人から恨まれることもなく、むしろ仲間を作りやすい人だった。
そんな父が死んでも、実感が湧かなかった。なぜ父は死んだ、なぜ父を殺した。その謎を、殺した犯人をどうしても明かしたかった。
「オレは死んでも犯人を捕まえます」
「お前な、死んでもってのはよほどの覚悟なきゃ言っちゃいけねぇんだぞ」白岩はむっとした。
「西塔さんはオレの気持ちがそんなものだと思っているんですか」西塔は面倒くさそうに脚をおろした。
「ま、別にいいけどな」
「オレが良くないですよ」
「ま、とりあえず聞け」採用はポケットからメモを取り出した。「そこに書かれてるやつ会ってみろ」
「だれですか」
「友人だ」
「会ってどうするんですか」
「そこはお前が考えろ。ジャック・クリスピン曰く、『考える者は長生きする』だ」
白岩に単独捜査の命令が出されたのはそのすぐ後だった。
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