2009年12月12日土曜日

黒澤1

 仙台駅連絡通路のファーストフード店は混雑していた。
 学校帰りと思われる制服の少年少女達が大半を占めている。ほぼ全員が制服を着崩しているせいで
あまり良い印象はない。
 これが未来の日本を背負わなければならないと思うと不安である、とは言い過ぎかもしれないが、あま
り深く考えたくはない。
 先ほど注文したコーヒーが2分ほどで渡された。「百円になります」と店員は言っていたが、なら百円に
なる前は何だったのだ。
 このような賑やかな場所は好きではない。黒澤がここに来たのは仕事のためである。
 黒澤の仕事は二つある。一つは探偵、もう一つは泥棒である。
 もともと空き巣を生業としていたのだが、高校時代の友人との出会いをきっかけに「仕事場」の調査の
ために探偵を兼用することにしたのだが、これがなかなか効率が良かった。
 もともと独自の美学のもとに行っていた泥棒行は不定期な収入なうえ、苦労の割に得られる額は低い。
しかし探偵業を始めると、一般の依頼だけでも十分食うのに困らず、平均8万から10万だった空き巣の額は、2,3万程度になっていた。近頃はそろそろ泥棒を引退しようとも思っていたところである。
 依頼が届いたのはそんな時だった。

 「黒澤さんっすか」聞き覚えのある声だった。
 「引力の論文はまとめたのか」何の話っすかと聞かれたが、話を続けることにした。
 「黒澤さん、やっぱり同盟に入る気はないんすか」
 仙台で連続放火魔の事件が騒がれたころ、黒澤のもとに電話があった。以前仕事の都合で出会った同業者だが、何かと黒澤を仲間に引き入れたがる。そのとき電話したのは「同盟」をつくるためだった。
 よく映画やゲームなどで盗賊ギルドなどが出てくるが、それに感化したのかそれとも他の理由か、仙台の同業者同士で結託して、情報交換、技術援助など互いに支えあって仕事をする、という名目と、身勝手な行動を禁じるという目的のために結成するらしい。
 「以前も言ったが、今のオレはだいたい泥棒じゃない」だいたい泥棒でないとは何なのかわからないが、意外と的を射ていた。
 「けど黒澤さんがいると心強いし、なにより分け前が大幅に増えるっすよ」
 「食うのには困っていない。困っているのは天井裏のネズミくらいだ」何度かガス栓をかじられたネズミには頭を痛めていた。
 「なら、もう一つの話っす。明日親分に会ってください」
 「親分というのはいない。以前も言ったはずだ」
 「そんなこといってもいい感じじゃないっすか親分って」
 「あいつが何の用だ」
 「黒澤さんと話したいそうなんすよ」

 後ろの席で女子高生が携帯電話に向かって怒鳴ったと同時にその親分が入ってきた。
 黒のスーツを着た彼は、泥棒というよりは、やくざのような威圧感があった。
 「ひさびさじゃねぇか、変わらねぇな黒澤」
 「お前は大分雰囲気が変わった」以前は工事現場などで汗を流しているような雰囲気だったが、だいぶ出世した。
 「これでも親分だからな、俺は」
 「親分、か」どうやら、黒澤が思っている以上に結束は固いようだ。黒澤が仲間にならないのは「親分」の概念がないからというのもあるのかもしれない。
 「今回呼んだのは他でもねぇ。お前に依頼をしたい」
 「泥棒が泥棒に仕事を頼むのか」
 「そっちじゃねぇ、お前の副業だよ」内ポケットから煙草を取り出して火を点けた。「今回は探偵のお前に頼みたいことがある」

0 件のコメント:

コメントを投稿